■アニメーター・演出のためのデジタルツール勉強会

『OpenToonzのラインテスト機能の見学会』レポート

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さる8月の27日、私は『OpenToonzのラインテスト機能の見学会』のため、マッドハウスさんを訪れました。
これはそのレポートです。

●事の発端
「なぜ今そんなレポートを?」と思われる方もいると思います。
事の発端を説明致します。
遡って6月17日のJAniCAの総会の折、とある会員の方に「QuickCheckerの代用ソフトはありませんか?」と質問されました。
デジタル化が進んでいる会社の方なのですが、演出の新人教育のためにもQuickCheckerを使いたいとの事です。
そこで、改めて今現在有用なソフトはないかと私個人で調べたところ、それとはまた別の方にOpenToonzを勧められました。
そちらの方によるとー
「元ジブリ関係者がその意を受けて開発している」「マッドハウスの劇場作品でQuickCheckerの代用ソフトとして活用されたらしい」「自分は他のソフトもQuickCheckerの代わりとしてラインテスト機能を使ったが、OpenToonzはそれより良いと思う」
ーとの事でした。

QuickCheckerはジブリで試験運用されて開発されたソフトですから(御存知ない方もいると思いますが、そうなのです)、『元ジブリ関係者がQuickCheckerの後を継ぐ形でソフトを開発しているなら期待が持てる』と私は思いました。
しかし複数の会社に尋ねたところ、この『OpenToonzにQuickCheckerを代用するラインテスト機能がある』事を知る会社は件のマッドハウス以外にはないことが分かりました(この時点の自分調べの範囲です)。

ー以上の旨を「伝聞でしかありませんが御興味あればいかがでしょう」ーと、最初に総会で質問された方には伝えました。
しかしそこで終わるには勿体無いーと思いました。
「QuickCheckerの代用ソフトとして使えるのであれば、レポートにしてさらに周知すべきでは」と考え、マッドハウスに赴いて見学取材を行い、そのレポートをJAniCAのWebサイトと会員通信上で発表したい・・・と思ったという訳です。


●レポート
応対していただいたのは、マッドハウスのプロデューサーの豊田さん、制作進行の早川さん、ドワンゴの岩澤さんです。
具体的に岩澤さんに動画を入力・再生してもらいながら機能解説していただいて、その使い勝手などを豊田さん、早川さんに伺うーという形になりました。


具体的に、開発者のドワンゴ岩澤さんの横で操作画面を見せてもらいながら説明を受けます。
(現場で動画素材を作成して、それを撮影してもらいました)
QARやQuickCheckerと同じように、カメラと撮影台、照明が用意されているのがお分かりかと思います。
ちなみに伺った時期は作品が一息ついた時期で、この撮影台では特に作業はされてないとの事でした。
ライトは、最初LEDを使っていたそうなのですが、光が強過ぎたので、白熱灯に変えたが、それも強かったので、今は部屋の蛍光灯だけで大体撮っているとの事です。


ピンボケで申し訳ありません!
GUIは既視感のあるレイアウトです。
QuickCheckerの操作性に意図的に『寄せている』との事です。


ここではカメラでの画像取り込みになりますがもちろんスキャナーでも取り込めるとの事です。
ただしOpenToonzは動画スキャンソフト『GTS(これもオープンソースソフトウェアです)』が別にあるので、それを使用することになると思います。


『カットファイル』の左下、『ファイル』の下に、『レベル名』とあります。
OpenToonzではセルのことを『レベル』と呼んでいます。アナログのタイムシートで『セルの重ね』を表す言葉が、この『レベル名』になります。
ドワンゴ岩澤さんによると「英語でセルのことを『Level』と言います。『Level』をどう訳すかについて悩みましたが、『タイムシートの中の1コマ』も表計算ソフトの感覚では『セル』と言うので、混同する恐れがあるかと思い、そのままカタカナ読みの『レベル』としました」ーとの事です。


撮影したコマがレベル(=セル)毎にタイムシートに並んでいます。列の上部にはそれぞれ『Table』と書かれています。
この『Table』とは何か?。ドワンゴ岩澤さんによると「『Table(=作画机)』はタップの親子関係のツリー構造の一番親のタップで、最初から用意されています。通常新規に『レベル』を作成すると、全て『Table』に接続している状態でタイムシートに配置されます。それですべての列に『Table』と表示されている」ーとの事です。
さらに「ここで『Table』と書かれている部分は、そのレベルがどのタップに接続しているか、という表示です。
OpenToonzは移動、回転、拡大縮小などの幾何変換をタップに対して行うことができます。タップは親子関係を持たせるようになっていて、親のタップで回転、子のタップでは移動、のように複数の幾何変換を重ねがけすることができます」ーだそうです。
ちなみにレベルA(Aセルの部分)が私が用意した素材。レベルB(Bセル部分)は質疑応答を印刷した紙を素材替わりに写したもので、今画面左に写っています。


コマ打ちのバリエーションが開かれています。
他の機能もお分かりになっていただけると思います。


基本的な操作画面です。左側に見えているのはAセルのボールの動画です。
アナログシートと比較しやすい操作画面です。


これも『QuickChecker』的ですね(他のソフトでもあるかもしれませんが)。
分かりやすいです。


岩澤とあるのは、「アフレコなどに使うセリフボードを入れられますか?」という質問に、Cセルとして入れてもらったものです。
左側の画面では、ABCセル全てが見えている状態になっています。
見学会のしばらく後でドワンゴ岩澤さんに聞いた話ですが、画像やレンダリングした映像データを、線撮目的に使いまわすために必要な新機能の開発を色々と行っているそうで、先日カットボールドを追加する機能を実装したそうです。さらにセリフボードをより簡単に作成できる機能も開発予定だそうです。
期待します!


ペイント機能の操作画面を見せてもらっています。
OpenToonzはアニメ制作の統合ソフトですから、アニメに十分なペイント表現ができそうです。


これはセルの番号に、アナログ的に多様な表記(A1’とかA1アとか)をつけることができないか?ーという質問に対して、
「基本設定的に難しい」と返答されて出てきた説明書きです。
データ表記に一定の決まりがあって、一番上の『A.0001.png』が基本。
2番目の『B_002a.tif』まではOK.
しかし3、4番目の『C0010.png』や『D.0001ア.jpg』となるともうNGという説明です。
[レベル名][ピリオドまたはアンダースコア][任意のケタの連番数字][アルファベット1文字(無くても良い)][ピリオド][拡張子]ーという条件を満たすファイル名が、OpenToonz上で連番画像として扱われるとの事です。


●お話も伺った上で、笹木が個人的にも良いと思われる点(QuickCheckerと比較して)
・画質が綺麗
・反応が早い(ただしQuickCheckerの時より高いマシンスペックを要求される)
※ 文末にインストール要件の参考データあり

・QuickCheckerのGUIに寄せられていて、それに馴染んでいた自分にはかなり違和感を軽減させようとする配慮を感じた。
・現在も開発が進んでいるソフトなので、こちらからの開発に対する要望になんらかの反応はしてもらえる様子。
・カメラワークがQuickCheckerよりも容易につけられる様である事。
ーといったところでしょうか。


●Q&A(見学会とその前後に行いました)
何項目にわたったQ&Aでしたが、詳細なお返事をいただいているので、具体的な導入を検討される方に参考になると思います。
(かなりの長文になっています。御容赦下さい)
質問(Q)は笹木が行なっています。かつてQuickCheckerへの要望アンケートで頂いた質問も流用しています。
アンサー(A)は、マッドハウスの豊田さん(マッド豊田と表記)とドワンゴの岩澤さん(ドワンゴ岩澤と表記)に行ってもらっています。

Q:OpenToonzをQuickCheckerの代わりに使う事になった経緯を教えて下さい
(誰からどの様な要望が出されて、どんな経緯でOpenToonzを使う事になったのか等々)。

A(マッド豊田):
・「劇場版 若おかみは小学生!」(以下「若おかみ」)制作に際して、監督の高坂さんからドワンゴ岩澤さん(当時はドワンゴではないですが)にOpenToonzにQAR機能を付けてもらうように相談しているので、使いませんかという提案を受けました。
・QuickCheckerがWindows10に対応していない事が、OpenToonz導入の大きな理由です。
・マッドハウスではQARとして4台を運用しており(WindowsXP×QuickChcker)、うち2台をWindows10×OpenToonzに切り替えました。
・1台は「若おかみ」班、もう1台は社内作画班で運用を開始しましたが、社内作画班では慣れていないという理由で、「若おかみ」制作中ではOpenToonzの運用を取り止めて、QuickCheckerの運用を続けました(現在は、社内作画班はOpenToonz、QuickCheckerを併用しています)。
・QuickChckerはWindows10上で不具合は出つつも運用可能と聞いたので、Windows10×OpenToonzPCにもQuickCheckerもインストールして並行運用しています。
・現在のマッドハウスでは下記構成になっております
 2階:Windows10×OpenToonz/QuickChecker(2台)
 3階:Windows10×OpenToonz/QuickChecker
 4階:WindowsXP×QuickChcker(ネットワークからは分離した状態)


Q:そもそもOpenToonzとQuickCheckerは別のソフトですが、使っていくにあたって発生した問題点とかがあれば教えて下さい。(QuickCheckerとの違いの比較としてお答えいただけるとわかりやすいかと思いますが、返って説明がややこしければ比較でなくても結構です)。それをどの様に解決していったか、あるいは解決できなかった事も含めて知りたいです。
A(マッド豊田):
・撮影ソフトがベースになっている点では同じですが、OpenToonzは撮影機能を省いていません。従って線画撮影機能のみを残し、撮影ソフトとしてのツールが省かれたQuickCheckerと比べて、使用するツールが少ないにも拘らず、膨大にツールが残っている状態のOpenToonzは使い難いと感じてしまいます。実際に使う機能以外のツールがたくさん見えるので、どれをどうするの?と感じてしまいます。
・線画撮影機能で使わないコマンドを隠すといった対応は有りますが、それでもコマンドは多く残っている状態です。
・ドワンゴさんとしては、線画撮影に特化した別ソフトという形態は考えていない/オープンソフトという性質上、線画撮影に特化する事は出来ないという事情から、上記内容を根本的に改善するという発想は無いとも伺っています。

A(ドワンゴ岩澤):おっしゃる通り、現状では線画撮影機能を別のソフトにする予定はありません。「線画撮影機能で使わないコマンドを隠すといった対応」をさらに徹底して、ユーザーインターフェースとして線撮機能に特化させる方向を進めるつもりです。

追加A(マッド豊田):
・OpenToonzは撮影ソフトとしてネットワーク上で運用する前提という事情もあり、ディレクトリからデータを移動しただけで、シートを読み込めない/動画再生できない状態が発生します。
・上記の保存場所ルールの制約があるので、撮影後に保存場所を移動できない事は、地味に制約になっているかと思います(チェック後のカットデータを移動させたい等々)
・同様に別のPCにデータを移動させて確認する場合、全く同じディレクトリ構造で運用する必要があります。

追加A(ドワンゴ岩澤):こちら、現在リリースしているV1.2.1では改善しており、QuickCheckerと同様の、タイムシートと撮影した画像をひとつのディレクトリに入れ、ディレクトリごと自由な場所に移動できるような管理方法が可能になっています。


Q:逆に、QuickCheckerにはない利点があればそれも教えて下さい。
A(マッド豊田):
・現在も開発が続いており、要望を出せば修正して頂ける事
・Windows10で運用出来る事
・画質が高い(PCの性能が良くないと動画がリアルタイムで再生できません)
→QuickCheckerはビデオ画質、OpenToonzはHD画質です
→USBカメラはオートフォーカス機能が標準ですが、待ち時間に苦情が多発したので、
 オートフォーカス機能の無いカメラを使っています(ドワンゴ岩澤さん推奨)

A(ドワンゴ岩澤):現在マッドハウスさんにお使いいただいているカメラに関してですが、『ホーザンL835』(https://amzn.to/2N93KfW)+レンズTokinaTVR0614です。条件は良いのですが、TVR0614が廃盤なので私が確保している在庫までしか広められません。JAniCAさんから広くお知らせするのにはやや不適切で、ここではお勧めできません。
代替として ELPのウェブカメラ『メーカー型番 ELP-USB8MP02G-SFV(5-50)-J』(https://amzn.to/2t9jpnw)を買って見学会当日に使ってみました。
幸いOpenToonzで認識できたのですが、画像に色ムラがありました。個体差なのかもしれませんが。
さらに、カメラで撮り込み可能な解像度のリストが縦横比4:3のものしかなく、HDサイズで撮り込む場合は一回り大きいサイズ(2048x1536)を選ぶ必要があります。
ですので、このELPは今のところ手に入るものの中では「価格と質で妥協できる機種」というくらいの印象です。
ーというわけで、ペンシルテストに向いているカメラは今も探しているところです。

追加A(マッド豊田):
・カメラワークを付ける事が容易である事(演出助手の方はカメラワークを付けていて、QuickCheckerよりも容易と話されていました。制作は付けていないので体感では判りません)
・ペイント機能も備えている(制作陣は使用していないので体感では判りません)
・ネットワーク上で運用出来る(同じく運用していませんが)


Q:ソフトに慣れるまで(「使用に問題ない」と判断できたまで)にどれくらいの時間を要したでしょうか?
A(マッド豊田):
・ベータ版的な状態から半年後くらいで運用出来る形になった印象です。
・「若おかみ」スタッフから出た要望に基づいて何度かバージョンアップして頂きました
(1.1〜1.2的なシート打ちが出来る様になる等々、細かい修正を相談しました)
・以降も継続的にバージョンアップして頂いていますが、制作後半に入ると、バージョンアップによる不具合を恐れて、バージョンアップを止めてしまいました
・「若おかみ」では、主に演出助手/動画マンが使用していて、社内に入っていた10名前後の原画マンはQuickCheckerと半々で使用していた印象です。 OpenToonzが使いにくい云々ではなく、単純にOpenToonzの入ったPC1台が他の誰かに使用されていた場合、QuickCheckerしか入っていない2階のPCを使う時期が有った…ということです。
(半年くらい遅れて、このPCもWindows10×OpenToonzに移行しました)
・ベータ版は撮影ソフトにカメラスキャン機能を備えた状態で使用を開始しましたが、QuickCheckerと似た感じで運用出来るように改善して頂いたので、使用手順さえ覚えれば、体感としては同じ位の感覚で使えると思います(例:カメラスキャンを開始する際に、データの保存場所を決める等々)。
・作業手順はQuickCheckerに似せて頂いたので、最初に「別のソフトを覚える」というストレスだけになっている筈です。

A(ドワンゴ岩澤):開発サイドとしても、既存のソフト(QuickChecker)と似た使い勝手で使えるということを重視しています。引き続き改良して参りますので、是非ご意見をお寄せ下さい。


Q:OpenToonzをQuickCheckerの代わりに使ったのは、具体的には「劇場版 若おかみは小学生!」と聞いていますが、TV作品でこの様な使い方をする場合、劇場版と違った配慮は必要でしょうか?
(多くの会社ではQuickCheckerはチェックの時間をとるものとして、TV作品ではあまり推奨されていません。OpenToonzを代わりに使うとして、マッドハウスでは何らかの配慮があるでしょうか?)

A(マッド豊田):
・OpenToonzかQuickCheckerか?という質問ではないかと思いますが、線画チェックという意味で、弊社では作品問わず、演出/原画/動画のチェック的な運用に留まっていると思います。
・マッドハウス社内では演出や原画マン動画マンが自身のチェックの為にTV/劇場の区別なく多用していますが、TVシリーズにおいて、監督/演出チェックのために演出助手/制作による対応は、時間と人材が確保出来ない為、行なっていません。
・劇場作品に参加する原画マンの多くが線画撮影してから提出している印象を受けていますが、「若おかみ」でも同様でした。何より高坂さん以下、ジブリで制作されていたスタッフが多く、ジブリでは線画チェックを多用する前提で、原画マン動画マンが自身のチェックで使うだけでなく、監督チェックでも使う工程でした。

A(ドワンゴ岩澤):現状では線画撮影はチェック用途のためだけに行われているので、おっしゃる通りスケジュールに余裕のあまり無いTVシリーズでは行うことが難しいかと思います。
現在検討中なのは、線画撮影で作成したタイムシートデータやムービーデータを、撮影工程や原撮/動撮に再利用できるようにすることです。タイムシートの再利用にはAfterEffectsのタイムリマップのスクリプトの書式でのエクスポート機能が必要ですし、原撮/動撮用にムービーを書きだすにはカットボールド/セリフボールドを簡単に付けたり、作画にマスクを簡単に付けるような機能が必要ですが、まだ実装されていません。これらもご意見をいただければ幸いです。

※追加情報です。
カットボールド機能が先日実装されました。正式リリース前の最新機能を盛り込んでいるNightly Build版というバージョンではお使いいただけます。下記URLからインストーラがダウンロードできます:
https://github.com/opentoonz/opentoonz/releases
カットボールド機能の使用方法のビデオはこちらです:
https://youtu.be/ot-6Yd3Bx1c


Q:JAniCAのサイト上でこのレポートを発表した場合、見た人からJAniCAに質問が来るかもしれません。その際、改めて何らかのお答えをメールなどでいただく事は可能でしょうか?
A(マッド豊田):
・仕事の関係者の方からの「OpenToonzを試しに触ってみたい」程度の要望であれば対応可能かと思いますが、社用アドレスの一般公開は控えさせて下さい。
・技術的な質問で有れば、開発者の方に要望を出して頂く方が開発も進みますから、質問者だけでなく、ソフトにとっても宜しいかと考えます。

A(ドワンゴ岩澤):技術的な質問や機能の要望でしたら、私に振っていただければできるだけお答えします。
※文章の最後の方に質問受付のメールアドレスを掲載しています。


Q:今後、ソフトとして改善してほしい点は?(既に要望など開発元に出していますか?)
A(マッド豊田):現状、修正要望が出て来る事が無い状態なので、特に出していません。
(「若おかみ」は制作終了、社内作画班はQuickCheckerとOpenToonzを併用している状態で、複雑な運用は行っていない為)


Q:シートのデータは、原画、仕上げ、撮影など他の工程でも使えるでしょうか?
(O・OpenToonz上で完結する場合とそうでない別のソフトで使う場合)

A(マッド豊田):OpenToonzで仕上撮影まで行なう場合は可能だと思います。
別ソフトに移す場合は対応出来るかどうか判りませんが、たぶんシートを書き出す作業が必要になるかと思います。

A(ドワンゴ岩澤):おっしゃる通りです。タイムシートの共通規格を検討中ではありますが…


Q:原画、動画のナンバリングの自由度は?
(アルファベット大文字・小文字、平仮名、片仮名など)

A(マッド豊田):OpenToonzの仕様の問題で、アルファベット/カタカナは使用出来ませんでした。
また数字の入力も1.1/1.2で対応していたかと思います。

A(ドワンゴ岩澤):現状では、「4ケタの数字」または環境設定で「3ケタの数字+[A〜I]のアルファベット0または1文字」が使用できます。新バージョンではファイル名の規則が緩和されていますので、A〜Iではなく任意のアルファベットが追記できるようになる修正を検討中です。


Q:カメラワーク機能は?(PAN、付けPAN、TU・TB等)
A(マッド豊田):撮影ソフトですので、全て可能な筈です。

A(ドワンゴ岩澤):全て可能です。


Q:キャラのセリフを画面上にだせないないでしょうか?
(アフレコ時の映像として使いたい)

A(マッド豊田):台詞を書き出して、上セルで配置する等々は可能だと思います。

A(ドワンゴ岩澤):上述の通り、セリフボールドを簡単に作れる機能も検討中です。


Q:手軽なスロー再生は可能でしょうか?
A(ドワンゴ岩澤):コマ送り/動画送りが可能で、どちらもショートカットキーを割り振ることができます。フレームレートをスライダで変更して再生できます。


Q:ペイントソフトの併用はできないでしょうか?
(ラインテストツールとして使う場合に、重なる部分の奥を見えなくさせたい時など簡単なペイントソフトが使いたい時がある)

A(マッド豊田):仕上ソフトでもあるので、併用できるかと思いますが、制作時は別の描画ソフトで撮影した線画データを修正していました。

A(ドワンゴ岩澤):現状でも可能なのですが、撮影した画像はアルファチャンネルのないJPGで保存しているので、キャラクターのマスクを抜くにはひと手間かかってしまいます。上述の通り、作画にマスクを簡単に付けるような機能は検討中です。


Q:アフレコの機能はあるでしょうか?
A(マッド豊田):申し訳ありません。質問の意味が判りません。
アフレコ素材として撮影素材が耐えうるかという質問で有れば、
画質が高いので問題なく使えると思います。

A(ドワンゴ岩澤):一応、音声レコーディングの機能もありますが、プロ向けではありません。


Q:ドキュメントスキャナーでの取り込み(自動タップ穴合わせ)は可能でしょうか?
A(ドワンゴ岩澤):トレース機能のオプションとして自動タップ穴合わせがあります。


Q:ムービーの出力形式(AVIなど)は?
A(ドワンゴ岩澤):AVI, MOV, MP4, WEBM, GIF が出力できます。(MP4, WEBM, GIFはffmpegという別のソフトと連携して書き出します。)


Q:シートの印刷は可能でしょうか?
A(ドワンゴ岩澤):HTML形式で書きだすことはできます。現場で使われているタイムシートの書式の通りに出力するという要望はあるのですが、まだ実装されていません。


<以下は見学後の追加の質問になります>
> Q:根本的な質問ですが、通常のソフト開発の場合、開発の結果がすぐにオープンにされるのではなく、要望を聞き入れてもらってから数年後に公開されるのがほとんどだと思います。
> しかし、今回のOpenToonzのラインテスト機能に関しては、マッドハウスさんの要望に答えて次々にバージョンアップされて行った・・・と私は受け取っているのですが、そういう事ですよね?

A(マッド豊田):認識に相違ありません。
最初期のバージョンから2カ月おき3カ月おきに修正版を頂きました。
2016年の夏ころに打合せを始めて、2017年頭には運用していた筈です。
2017年の秋口までの修正版はインストールして運用しましたが、「若おかみ」制作が佳境に入った2018年以降の修正版はインストール後のバグ対応が怖くて行ないませんでした。


Q:事前のQ&Aで『使用するツールが少ないにも拘らず、膨大にツールが残っている状態のOpenToonzは使い難いと感じています。実際に使う機能以外のツールが多過ぎるので、どれをどうするの?と感じてしまいます。』との返答でした。これは今回の新しく持ち込まれたver.1.2.1でも同じだったでしょうか?
A(マッド豊田):初めて触る人は同じ感想を持つかと思います。
今回の岩澤さんの説明でも散見されましたが、これをこうするとこうなります…は、ツールの選択肢が少ないQuickCheckerでは起きない問題です。
裏返せば、QuickCheckerは機能改善が出来ないという事でもあるので、これは善し悪しだと思います。


Q:同じく事前のQ&Aで『現状、修正要望が出て来る事が無い状態なので、特に出していません。(「若おかみ」は制作終了、社内作画班はQuickCheckerを運用している為)』ーとありますが、 これは現在はOpenToonzを使っていないという事でしょうか?。
ーであれば、その理由を教えて下さい。
同時に、まだQuickCheckerを使っている理由も知りたいです。

A(マッド豊田):PCにはOpenToonzがインストールしてあるので使っているスタッフがいる程度です。
作品単位/会社単位で運用している…というレベルでは有りません。
3階の社内作画班は、追々移行していますが、まだまだ併用している状態です。
特に強制する事も無く、使いやすい方で良いんじゃないの的な緩い対応というだけで、大きな理由は有りません。会社全体では緩やかに移行していくかと思います。
(未だに古来のビデオ撮影によるQARも運用しているくらいですから、同様にQuickChckerも残っていくと思います)


Q:特に個人でラインテストツールとして使用する際、OpenToonz導入のハードルになるようなことはないでしょうか?
A(マッド豊田):まずPCのスペックが問題になるかと思います。
いろいろ加工したり鮮明な画面に仕上げたければ、対応の出来る処がOpenToonzの良い処ではありますが、イコールPCのスペックを要求される事になります。
もうひとつ、カメラがオートフォーカスの場合、画質が良いだけに時間がかかるので、そうではないカメラを使用した方が良いかと思います。
※文末にPCのインストール要件を記しています。


Q:例えば、導入手順でPCに不慣れなアニメーターが引っかかってしまうようなことはないでしょうか。ラインテストツールとしてのマニュアルはあるのでしょうか。 (サイトを確認しましたが、ラインテストツールとして使えることの記載はなかったです)
この辺り、マッドハウスではどう対応されたのでしょうか?

A(マッド豊田):最初に岩澤さんに作って頂いた導入マニュアルと簡易マニュアルがあり、それを元に運用しておりました。
バージョンアップに基づく更新は行っていないので、あくまで基本的な処までです。

A(ドワンゴ岩澤)ペンシルテスト運用マニュアル&設定ファイル をOpenToonzのWebサイト
https://opentoonz.github.io/
で公開いたしました。よろしくお願いいたします。
ダウンロード>ユーザー向け>「ペンシルテスト運用マニュアル&設定ファイル (ZIP)」から一式をダウンロードできます。


Q:最後の質問です。これは岩澤さんへの質問になります。
OpenToonzが、さらに多くの会社や個人に使われるようになり要望の数が増えるような事になった場合、現在のOpenToonz開発環境はそれに長期的に対応できる状況でしょうか? そういう場合には開発環境の強化するなどの、長期的な対応策はお持ちでしょうか? (これはQuickCheckerが開発中止に陥った事例からの疑問です)

A(ドワンゴ岩澤):
@ ドワンゴがOpenToonzを継続して開発することについて
現状弊社はOpenToonzを無料で使用できるソフトウェアとして公開しており、今後もOpenToonzを販売して事業化するという考えは今のところありません。現状弊社では私を含め2名のエンジニアがOpenToonzの開発を担当していますが、上記の理由のため、OpenToonzに今後人員を増やす余裕は今のところありません。ただ、OpenToonzが制作現場で導入されアニメーション業界に貢献していることをアピールできることがドワンゴにとってはプラスとなりますので、制作会社さんにはOpenToonzの導入事例をWebサイトやイベントなどで告知させていただくようなご協力を積極的にお願いしています。

※追加情報です。
OpenToonzのWebサイト内に導入事例をまとめたページを新たに公開しました。今後はこちらで告知していきます:
https://opentoonz.github.io/usecase.html

A ドワンゴ以外にOpenToonzの開発陣を増やすことについて
QuickChecker等の商業ソフトウェアと異なり、OpenToonzはオープンソースソフトウェアです。 やる気さえあれば誰でもOpenToonzの開発に携わることができますし、例えば独自の改良版を製品として販売することもできます。 そういう意味では、(必要とされている限りは)ソフトウェアとしての寿命は他の商業ソフトより長いと思います。 すでに多くの外部の開発者の方がOpenToonzを日々改良して下さっていますが、 今のところそのほとんどは海外の方で、必ずしも日本のアニメーション産業の要望に沿った改良ではありません。 今後は国内のエンジニアの方がOpenToonzの改良に興味を持っていただいて、 開発者コミュニティに多く参加していただくことを望んでいます。

Q&Aはここまでです。
マッドハウス豊田様、ドワンゴ岩澤様、多数の質問に対して大変詳細な返答頂きました。感謝致します。


レポートも以上です。
個人的にはOpenToonzのラインテスト機能に大変具体的な可能性を感じました。
(個人的にはすぐにでも使って見たいです。ーが、自分の今の仕事はアニメーターではないのでしばらく導入予定はありません。この辺はどうにも残念です)
御興味がある方、もしくは会社は導入を検討されてはいかがでしょうか?

また、ドワンゴ岩澤さんが質問を受け付けて頂けるとのことですので、連絡先をお伝えします。

<ドワンゴ岩澤さんへのメール>
公開可能な内容(一般的な操作方法の質問、機能追加の要望、不具合の報告など)はこちらのOpenToonzフォーラムに書き込んでいただければ、返答いたします。他のユーザーの方が返答もできますし、後々他の方が参考にできるので有り難いです。
https://groups.google.com/forum/#!forum/opentoonz

それ以外の公開ができないご相談は、JAniCA代表アドレス(postmaster@janica.jp)経由でご連絡ください。


3DCGの作画やタブレットの作画が増えてきましたが、まだまだ紙の作画は現場で重要です。
そんな中で、ドワンゴさんによるOpenToonzのこの取り組みは、うまくいけば現場にとって大変有益なものになるのではと思います。

マッドハウスの豊田さんと早川さん、そしてドワンゴの岩澤さん、お世話になりました。有難うございました!

『OpenToonzではじめるアニメーション制作:著者/泉津井陽一』によると、以下がOpenToonzのインストール要件になります。
Windows版
・Microsoft Windows 7 SP1/8,1/10(64bit必須)
・Intel Core iシリーズプロセッサ
・4GB以上のメモリ
・500MB以上のストレージ空き容量
・1280×1024ピクセル以上の解像度を持つディスプレイ

Mac版
・OS X 10,9以上
・Intel Core iシリーズプロセッサ
・4GB以上のメモリ
・500MB以上のストレージ空き容量
・1280×1024ピクセル以上の解像度を持つディスプレイ


文責:笹木信作