「日本アニメーター・演出協会」記者会見(その3)
平井:ありがとうございました。続きましてしんぶん赤旗様よりもう一点、「労働条件やアニメーターの地位は現在、そういう状態ですか?」というご質問です。こちらは芦田代表に。どうぞ。

芦田:答えがダブると思うんですが、「アニメーター=芸人論」というのがあります。それの呪縛ってのがずっとあって「芸人だからしょうがないだろう」と。10億稼ぐ人も、100円しか稼げない人もいて当然だろという、メディアの方々も、このインチキな論理を打破してほしい。論破してほしい。明らかに違いますよね。芸人というのは、漫才であればたった二人で職業になる。アニメの場合、たった二人で職業にならない。自主的フィルム作るなら別ですよ。たとえば長編のアニメーション作ろうとしたら、そこには50人、100人ものアニメーター、演出、いろんな人が必要になる。そこが基本的には違う。それから労働時間が違う。流行り言葉のワーキングプアそのものが、アニメーターだと思います。そこを改善していかないと、アニメはダメでしょうと、さっきから言ってる通りです。それから、共通の思いや希望ってのは、我々の世代のアニメーションが「鉄腕アトム」から始まったんですが、きっとこの霧の向こうに、ユートピアがあるだろうなって思って入りました。そして一時期、あったような気がするんですよユートピアが。しかし今、入ってくる若い人たちってどうなんだろう。霧がかかってる事には変わりないんですが、霧の向こうに、永遠と続く泥沼があるって事をわかってて入ってきてるんじゃないか。これは、我々の世代よりよっぽど偉いんじゃないかなっていう風に思います。若い人たちのために、我々は捨て石になってでも、がんばりたいなと思います。しかし、基本的には経済活動ですから、とても難しい。我々の一番苦手なところなんですよね。ですから、ぜひともメディアの方も含めて、いろんなアドバイスを下さい。それからJAniCAをぜひビジネス相手として利用してください。これからもっと増えてくるでしょうが、これだけのメンバー、考えて頂ければ利用価値ってのはたくさんあるんじゃないかと思います。よろしくお願いします。

平井:ありがとうございました。では事前にお受付させて頂いた最後の質問となります。アニメージュ様より頂きました「できれば、活動内容において、もう少し具体的な内容、活動予定等をうかがいたいと思います」との事です。こちらは事務局の方から。

新藤:では、この内容について事務局の方からお答えします。お手元にお配りした資料の2ページ目に、当協会の活動内容と目的というのを、12項目ほど書かせて頂いております。様々なレベルの話、中には非常に時間のかかる話も入ってるんですけども、先ほども事務局の方から話がありました、予算を伴って、利益を伴って、準備した中で逐一整えていきたいと考えております。その中でも一番初めに書いてあります「アニメ作品の創作・技術継承・視聴の機会提供や機会拡大およびその補助」というのが、実は文化庁さんの方でも、実写映画も含めて行っている活動の中にもありまして、実際に相談の方は進めさせて頂いております。そういったところから、皆さんの方にまた新しい活動の方をできればと考えております。また「アニメクリエイターへの国内外からの問い合わせ窓口機能」というのがあります。今まで海外の映画祭等でも、それぞれスタジオレベルでしか、連絡のしようが無かったんですが、我々JAniCAが、国内・国外問わず、窓口の機能として動いていけるようになりたい。それから下から4番目になりますけども「技術的評価を主眼とした表彰制度の創設と運営・発表」というのがあります。私もちょっと映画祭の方でスタッフとして動いたりしてるんですけども、一般の映画祭の中でアニメーションを扱っても「アニメーション作品賞」という事でしかありません。そうしますと大変大きなコストをかけた劇場用作品以外は、受賞するのがありえないというわけです。ところがアニメーションというのは、日本においてはやはりテレビの放送やビデオパッケージも含めて、それら全てが同じように作られ、提供されておりますので、そういった物を含めた全ての中で、我々プロの目から見た厳しい評価をしたものを、皆様に「ここを見てほしい」という事を含めてですね、技術的継承の意味も含めて、発表していけたらな、という風に考えております。こちらの方に、皆さんの方にまた具体的な発表ができるようにしたいと考えておりますので、どうぞその際には応援して頂きたいと思います。

平井:ありがとうございました。事前に受付いたしましたご質問ですが、時間の関係ですべてご紹介できませんでした。またこちらの方、順次お答えして参りたいと思いますので、なにとぞご了承下さいませ。では、ご来場の報道メディアの方々で、JAniCAの活動と今までの発表について、何かご質問のある方、これから受付したいと思います。ご質問のある方、どうぞ挙手をお願い申し上げます。おそれいります。マイクをお持ちいたしましたので、所属と媒体名とお名前の方、お願いします。

柳谷:雷鳥社という小さな出版社の代表をやっております、柳谷といいます。大変興味深い話を伺わせて頂いてありがとうございます。何点かあるんですけども、一人でマイクを持ち続けるわけにいかないので、いくつかに絞ってお話を伺いたいと思いますが、まず、非常に個人的な疑問としてですね、先ほど、作画をやってらっしゃる方が時給五百何十円だとかですね、演出の方が800円だとか、作画監督で700円台だとか、職種に限らずこういう風な時給で、人が働くという事はありえるのかどうかという素朴な疑問を持ちました。「そのギャラじゃ働かないよ」と皆さんが本来おっしゃれば、日本のアニメ業界そのものが崩壊する、という事になりかねないと思うんですけども、これは、意地だとか、夢だとかいう事だけで、人が動いていらっしゃるのか。で、その夢という中にですね、六本木ヒルズに住んでらっしゃるアニメ制作会社の役員の方とか、そういう方もいらっしゃるという話を聞いた事があります。これは普通、時給800円とか600円だけれども、企業経営者、自分が上で制作者の先頭に立って企業経営をした場合のみ、お金持ちになる可能性があるという事なのか。あるいは何を具体的に目標にしてお仕事をされてるかという事で、この時給600円700円の方に皆さんは頼らないといけないのか、という事が一番最初に疑問に思ったことなんですけど、いかがでしょう。

平井:では、芦田代表、お願いいたします。

芦田:時給が1000円以上の人もそれ相当にいます。でも時給200円とか100円の人もいるんですよ。で、その根拠というのは、皆さん掛け算割り算してほしいんですが、たとえば、10人でやってる作画プロダクションの、社長は50万。「50万も取るなんて」って一瞬思った人もいるかと思いますが、そのポジションは一人ですね。その下にベテランの原画マンが二人くらい30万で、それから20万円台が二人くらい。それから12万円くらいが二人くらい。6万くらいが二人くらい。だいたい平均労働時間が13時間ですね。もっと働く人もいます。あと月に働くのがほぼ28日くらいだろうと。月31日はいくらなんでも無理なんで。そういう風にして割り算をしていくとですね、時給500円。で、それを掛け算してくと、先ほど言った日本のアニメーションを支えてる優秀な原画マンが、手取りで月収20万くらいという事になります。これは結婚して子供なんか育てられる状況ではない。もちろんもっと稼いでいる人はいますよ。「俺はそんなんじゃない」って怒る人はいますけど。でも月に60カット、コンスタントにやるっていうのは、相当な能力の人ですので。それからもう一つ、なぜそんなにやるんだっていう、なぜそこまでしてやるんだって言うと、これはもう「大好き」だからですね。自分が大好きだからやってる。そこを利用されてるんですね。お金が1000円しか出ないのに、2000円3000円分やってしまうのが我々なんですよ。それでは他の職業の日本の職人、技術者ってどうなんだろう、アニメーター以外はどうなんだろう、江戸の職人はどうなんだろうと考えてみると、十文しか出ないのに二十文分の仕事をやってしまうわけで、それを我々は受け継いできているもんなんだなぁという風に思います。日本のですね、これは誇っていい文化であり、捨てちゃいけないもんなんです。きっとメディア関係の皆さんも、言われもしないのに余計に働いたりしてると思います。それはいい事でもあり悪い事でもありますが、でもそれをズルく利用する奴ってのは、困りますね。ヒルズに住んでるアニメ会社の社長って初めて聞きました。

記者:役員です。

芦田:役員(苦笑)。そらスゴイですね。調べてホームページに書きましょう(笑)。きっと「自分の稼ぎだ」って言うでしょうね。それは知りたいですね。面白いです。答えは「好きであるから」なんですが、いくらなんでも限界点であると。

柳谷:芦田さん、つけこまれてると何度かおっしゃいましたけれども、やっぱり「ちょっとおかしいじゃないの」「もうちょっと分配率を変えるべきである」という考え方が基本的にはあると思うんですけど。

芦田:ありますね。

柳谷:つまり、みんなが貧乏なのではなくて、非常にたくさん利益を取ってしまってるところがあるんではないかという事です。

芦田:まぁそうでしょう。ただ、今回のJAniCAっていうのは、ひょっとしたらテレビ局。そういったところのビジネス相手になっていくかもしれない。微妙なんですよね。わかってください(笑)。全方位外交です。配分の問題は確かにあります。かといって何十年間、続いてきたあのパターンの労働運動、というものを想像した時にですね、どうも我々には似合わないっていうか、考えただけでダルくなってしまいますので、何か別の方法でのビジネスモデルって無いかなって思います。しかし、やむを得なければ労働権の行使もありえるでしょう。

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