■アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)

「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2016」アフターレポート

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 2016年2月13日(土)に「Coconeriホール」で開催された 「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2016」の模様です。



入場受付の様子


開催挨拶の様子


メインセッション会場には多くの業界関係者にお集まりいただきました


展示会場では、実機を触ったり、機能説明を受けたりしていました


セミナールームでは、具体的な事例について熱のこもった発表がされました


■メインセッション
(敬称略)

イントロダクション・開催挨拶
代表理事挨拶 : 井上俊之 (一般社団法人日本アニメーター・演出協会 代表理事)
主催者挨拶 : 入江良郎 (文化庁 文化部芸術文化課 芸術文化調査官)
趣旨説明 : 小山敬治 (ACTF事務局・コーディネイター)
司会進行 : 轟木保弘 (株式会社ワコム)

メインセッション1:「Toon Boom Harmonyを使ったデジタル作画ワークフロー構築への道」
株式会社オー・エル・エム/加藤浩幸、四倉達夫
 作画のデジタル化は非常にハードルの高いテーマです。昨年春よりToon Boom Harmonyを導入、現在「ポケットモンスターXY&Z」のミニコーナーをデジタル作画で制作できる段階になりました。問題は山積していますが、導入から現在までの様々な課題を本セッションで紹介しました。特に、人材・社内独自マニュアル・ワークフロー構築・ITインフラについて詳しく説明することで、皆様のデジタル作画導入の助けになれば。

メインセッション2:「あえてやるんだ!TVPaint作画の可能性」
株式会社サンジゲン/山田豊徳、茶之原拓也、佐藤謙次
 3DCGスタジオであるサンジゲンがなぜ手描きデジタル作画なのか?「あえてやるんだ」その言葉のもとに何もないところからの七転八倒。そしてTVPaintによるデジタル作画のフローに見いだした活路。どうすれば作品の中にデジタル作画が活躍する場を見いだすことができるのか。どうしたらアニメーターはデジタル作画と向き合えるのか。TVPaintを使ったデジタル作画の事例を通してコンピュータで絵を描くということ、ひいてはアニメーターの可能性を考えました。

メインセッション3:「CLIP STUDIO PAINT & STYLOS でのデジタル作画ワークフローの構築について」
株式会社スタジオコロリド/石田祐康、新井陽次郎、栗崎健太朗
 スタジオコロリドでは積極的にデジタル作画を取り入れております。今回のセミナーでは、弊社がデジタル作画を導入する理由を説明させて頂きながら、実際のワークフローの中でどのような形で活用をしているかを、昨年公開された作品「台風のノルダ」や他CMの事例をもとに説明しました。また、一方では現時点でのデジタル作画の問題点やあるべき形についてもスタジオコロリドの考えについて説明させて頂きました。

メインセッション4:あにめたまご2016「制作受託4社の制作状況:実例発表 株式会社シグナル・エムディ」
「あにめたまご2016」/竹内孝次、小林洋子
株式会社シグナル・エムディ/本多史典、清岡勇太
 まず「あにめたまご2016」の概要、制作受託4社の制作状況を説明し、4社を代表して株式会社シグナル・エムディから「カラフル忍者いろまき」の制作実例を紹介させていただきました。

■セミナー
セミナー1:「タツノコプロ株式会社×CACANi Private Ltd.」
株式会社タツノコプロ/りょーちも、川野達郎、山田奈月
CACANi/リュー・ホンツェ、渡邊喜洋(通訳)
 セミナーでは弊社の企画プレゼン用作品「テンプルちゃん」を実例に「CACANi」の動画/仕上げパートでの運用や今後の展望に関して講演しました。この作品は社内チームにて完全ペーパーレスへの検証も兼ねて制作しました。

セミナー2:「アニメ「進撃の巨人」プロデューサーが語るキャラクター戦略」
株式会社講談社/立石謙介(ライツ・メディアビジネス局 ライツ事業部 部次長)
デジタルハリウッド大学大学院/高橋光輝
 コミックスの発行部数5,500万部超、昨年は実写映画も公開され2部作の興行収入が50億円に迫る大ヒットを記録、タイアップ件数 2,000件以上等、国内はもちろん海外でも大人気である「進撃の巨人」。2016 年には「進撃の巨人」 のアニメ第 2期の製作も決定しています。「進撃の巨人」の今後のキャラクタービジネスの展開を中心に、制作も含め今後の展望を語りました。

セミナー3:「アドビシステムズ株式会社」
アドビシステムズ株式会社/轟 啓介(Creative Cloud Individual マーケティングマネージャー)
 アドビのアニメーション制作ツールFlash Professional CCがAnimate CCに名称変更され、アニメーション制作の現場に役立つ機能も追加されました。このセッションでは、新しくなったベクターブラシやオニオンスキン、ボーンツールなどのAnimate CCの新機能やCreative Cloudと連携するメリットについてデモを交えて紹介しました。

セミナー4:「TVPaint Developpement」
TVPaint Developpement/Fabrice Debarge、Menzin Lise、佐藤直幹(通訳)
 今年はTVPaint Developpementの25周年の記念の年を迎えます。その機会に1991年から進化の過程の振り返りを通して日本のTVPaintのお客様とそれぞれの公開された作品と今後の作品を紹介。ソフトウェアの進化について、日本のアニメーションスタジオ向けの機能(Xシート、彩色のオプション、レイヤーの新しい機能、フリップのオプションなど)を紹介しました。さらに、TVPaintの日本の皆様向けのプロジェクトについて詳しく説明しました。

セミナー5:「スタジオコロリド × CLIP STUDIO PAINT デジタル作画セミナー」
株式会社スタジオコロリド/石田祐康、新井陽次郎、栗崎健太朗
株式会社セルシス/武田暁雄
 アニメ制作ソフトシェアNo.1 RETAS STUDIOの後継に当たる『CLIP STUDIO PAINT 』。「紙と同レベルの描き味」を追求し、既に国内外合わせて150万人のクリエイターに御利用を頂いております。本セミナーでは、セッションに御登場を頂いたスタジオコロリドに制作工程を実演頂き、アニメーション機能やRETASとの連携を深く掘り下げながら説明いたしました。

セミナー6:「アニメ技術を活かす新しい仕事。採用のコツ教えます!」
株式会社イマジカデジタルスケープ/原田健一(メディアサービス部 オンラインワークグループ)
 株式会社イマジカデジタルスケープはゲーム、遊技機、映像、Webなどのエンタテインメントコンテンツに特化した人材コンサルティングサービス及び、コンテンツ制作を行っております。7000億円を超えるスマートフォンゲーム市場において、現在注目されています2Dアニメーションのマーケット状況と実際の制作工程を御覧頂きながら、どのようなスキルが今後求められているか説明いたしました。

■展示
株式会社セルシス「CLIP STUDIO PAINT」
TVPaint Developpement
CACANi Private Ltd.
株式会社サードウェーブデジノス「raytrek 旭プロダクション監修 CLIP STUDIO PAINT EX デジタル作画モデル」
一般社団法人アニメミライ「アニメミライプラス2『わすれなぐも』lite」(iPad/無償)
ねこまたや
進藤 恒
一般財団法人デジタルコンテンツ協会
あにめたまご2016(一般社団法人日本動画協会)
公益財団法人画像情報教育振興協会(CG-ARTS協会)

■サテライト会場ビューイング
神戸電子専門学校
専門学校 九州ビジュアルアーツ
日本アニメ・マンガ専門学校

■交流会
アルコール飲料なしの立食形式にも関わらず、登壇者も含め約150名にご参加いただきました。

■開催結果のまとめ
・事前受付数396名(昨年:415名)。※サテライト会場ビューイングを除く
・来場総数299名(昨年:316名)。※サテライト会場ビューイングを除く
 内訳は、アニメーション制作事業者:241名、教育関係:25名、官公庁・団体:5名、プレス:16名
・サテライト会場ビューイング11名(昨年:未実施)。※3会場合計、学生除く

※参加したみなさんの感想(抜粋)

・アクセスが良かった。周辺にお店も多い
・会場は良かったができれば中央線沿いにして欲しい
・前の人の頭で後ろは見えにくかった
・机が付いていると良かった
・定期的にこういう情報を得られる場所が欲しい
・ACTFはとても素晴らしい企画でした。参加出来てよかったです。ありがとうございました。
・セッションとセミナーを両方すべて参加できるようにして欲しい。
・現場の声がHPでは寄せられているがそれに対する見解のようなものをできれば示して欲しかった
・デジタル作画の事業計画・損益分岐点・経営について知りたい
・より実践的な導入後のノウハウについて聞きたかったので今後そうなってくれるとうれしい
・今回、具体的なワークフローまで言及されていて、大変分かりやすかった。
・「わが社がこのソフトウェアを採用した理由」を複数の会社から聞きたいです。
・デジタル作画はオーセンティックな作画の会社やチームよりも3DCGからのほうが親和性が高い。
・3Dと2Dとの調和性を考えて欲しい
・TVPaintのマニュアルとスクリプトを一般公開して欲しい。アップグレードを安くして欲しい。
・作品数に対する原画マンの人数が足りていない。

総括

 昨年より会場のキャパシティを増やしたにも関わらず、募集開始後2週間を待たずに定員は充足し、早々に募集を締め切らざるを得なかった。作画工程を中心にした手描きアニメーション制作のデジタル化の情報ニーズは、昨年に引き続き冷める気配はない。
 そうした時勢に甘んじることなく、当事業は豊富な登壇者をそろえ、制作フロー改革という昨年より一歩進んだテーマを提示しながら、更にサテライト会場への拡張など、新たな挑戦を加えながらも、来場者から好評を得られていることから、本事業の成功は明らかだ。

 しかし、本年度から理念を明確にし、業界へのより一層の貢献を誓ったその高い意識で振り返ってみると、多くの課題も浮かぶ。今回はデジタル化の指向が強い、デジタル環境に親和性のあるアニメーターの来場が多かったが、業界の大部分を占める鉛筆アニメーターの来場者は相対的に少なかった。ACTFのイベント開催そのものを知らない業界人がまだまだ多いという課題もあるが、390名超の申込みのうち100名程度にも及ぶキャンセルが発生したことは今後の課題である。仮に、フリーのアニメーターの、納品義務を飽くまで個人で負う業務特性に起因したキャンセルと推測すれば、業界のマジョリティーへの訴求という当事業の理念にはあと一歩届いていない。鉛筆アニメーターへの訴求という意味では、会場とのQ&Aを充実させるなど、現状の議論に共感を喚起する工夫も今後は力を入れたい。

 来場者については、おおむね満足度が高かったとはいえ、楽観はできない。個別に観察すれば、そのニーズにはバラツキが大きく、例えば「広くツール全般を知りたい」来場者と、「(既に自分が使っている)特定のツールのみを知りたい」来場者の両極端な2つの傾向が見受けられるなど、ニーズにつかみどころがない。
 登壇者の立場に立っても、多くのニーズに応えようとして、メインセッションとセミナーの並行実施など、むしろ詰め込みすぎが心配された。催しが乱立すれば、多くの来場者と交わりたいはずの登壇者のメリットも目減りする。登壇する手間に見合うリターンをゲストは得るべきであり、その点にも今後より一層の配慮が必要である。
 とはいえ、昨年より広い会場の実施により、展示会場のスペースで来場者間での活発な交流が見受けられるなど、思わぬ効果も得られた。

 サテライト会場においても同様に、活発な来場者交流が報告された。会場設備に起因するネット回線の不安定さから映像配信に支障を来す場面があったが、プロダクション工程のデジタル化は制作の遠隔地分散に有利に機能することから、一層の地方への情報発信には計り知れない価値がある。設備の充実を図り、次年度も拡張して取り組んでいくべきであろう。また、限定配信ではない広く一般のネット配信希望の声もあるが、発表に使用する映像素材が一般視聴者への公開を前提としないため、現状の拠点間での限定配信にせざるを得ないことは付記しておく。

 次年度に向けては、施設の全エリアを使用し、設営と撤収に十分な日程を確保した上での複数日の拡大運営も検討とともに、来場者の管理方法を(チケット送付式などへ)改善してキャンセルの発生率を減らすことで収容限界に迫る多くの方に御来場頂けるものと考える。
 また、それに見合った内容の拡充を図るため、ロードマップにも明記したワーキンググループ等の研究活動も充実させていきたい。幸い、当事業をきっかけに優れた人材との接点が生まれ、既に好感触も得ている。来場者のニーズを慎重に精査し、業界の現状(開催時点)に沿ったカテゴライズで内容を細分化し、業界の幅広い層への訴求力を生み出したい。

 業界全体の「アニメーション制作現場のデジタル化の端緒期」という機運がありつつも、制作会社は、企業体力が乏しく、また間近に迫る放送・納品日に最優先で社内リソースを割かねばならない事業もあり、将来的なデジタル化などのR&Dに注力できない問題を抱えている。それらを代行し業界全体の共通基盤として実施する本事業は、事業に対する要望は高いものの、短期的にはその効果の計測が難しいのが実情である。

メディア等での記事

(練馬アニメーション サイト)
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(おたぽる)
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(メディア芸術カレントコンテンツ)
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(月刊CGWORLD vol.212)
アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム ACTF2016 レポート

(WIRED)
続・アニメーターが紙と鉛筆を捨てるとき:ACTFでみた、デジタル作画戦国時代の到来

(JapanAnimeMedia)
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