■設立発表(記者会見その1)

「日本アニメーター・演出協会」記者会見その1




平井:では、さらに詳しく「日本アニメーター・演出協会」JAniCAの活動について、 ご説明させて頂き、また皆様からの質問にご回答して参りたいと思います。ここからは筆記のため、 着席にてお話させて頂くこと、どうぞご了承くださいませ。まず始めに、芦田代表より、 協会の基本的な活動プロトコルを説明させて頂きます。芦田代表、どうぞよろしくお願いいたします。

芦田:今、日本のアニメーションがこのままダメになっちゃうんじゃないかっていう事が 言われはじめてます。ひょっとしたら、海外のアニメーションはダメにならずに 日本のアニメーションだけがダメになる。今、特に東アジアの国では国費を使って、 アニメーションを育ててるわけですが、仕上げ以降、もちろん制作や声優さんも含めて、 それらはすでに自前で持ってるんですよね。それでどういう動きがあるかというと、 育てるのに一番大変なところ(作画・演出)を一本釣りするという、そういう動きが出てきてるわけです。 つまり我々を一本釣りするという事ですね。当然ながら、誰もが考える事であり、 今そういう状況に来ている。日本のアニメーションを守るっていう事は…、日本人とは言いません。 日本で仕事やってる人ですね。それを守るにはどうしたらよいか。どうしたらもっと良くなっていくのか 、基本的にはそういう事を考えていく会であると。

平井:はい、芦田代表ありがとうございました。では次に続きまして、 まず事前に受付をさせていただきました代表的なご質問に関しまして、事務局よりご回答いたします。 こちらの方に事前の質問が届いておりますので、私の方から質問を一つづつ読み上げさせて頂き、 そしてご回答頂くという形で、進めさせて参りたいと思います。ではまず最初です。 フジサンケイビジネスアイ・日本工業新聞様より、「終局的に貴協会が目指すものは?  制度的あるいは協約的なものを作っての労働条件の向上か。相互理解を高めることによる、 強要的でないWinWinな状況の創出か。声優の例にならえば、制度化に伴いベテランが冷遇される、 といった可能性もあるので」といったご質問に関しまして、お答え頂けますか。

芦田:これはじゃあ私の方から。終局的に協会が目指すものは、先程も言った通りです。 現状ある制作会社と競合するような形でない、そのような仕事のあり方。 JAniCA自身が仕事をやっていくっていう。そういう事は当然考えていく。運営していくためには、 自立をしていかなきゃいけない。自立をするためには経済活動もしなきゃいけないという事ですから、 いわゆる既存の物にですね、頼っていったらやっていけないだろうと。 単なる仲良しグループみたいなもので終わってしまう。またこれは、これから5年10年20年30年と 続けていかなくてはいけないと考えています。私は今、63ですから、そう長くは無い。 脳の活発な活動が長くないという事です(笑)。それから「労働条件の向上なのか」という質問ですけど、 私は今、JAniCAのホームページの方にエッセイを連載しているんですけども、 ぜひ読んでください。そこに細かい事は書いてますから。月々に安定して60カットの原画を 描くという原画マンの人は、相当な能力の人です。これは原画マンとして、 日本のアニメ作りの中心であると言ってもいいんじゃないか。そして一般の人にも判るように、 1cutの値段などを時給換算した訳ですが、労働時間等々と、割り算掛け算していくと、 この優秀な原画マンが、時給換算540円になります。どうですか。540円です。 それから優秀な作画監督、この人たち。これも時給換算していくと、その人たちは800円台ですね。 ちょうどコンビニの店員さんくらいですか。それから演出の人たちですね。 これも時給換算していくと、確か600円いくら。そういう数字が現実なんですね。 「労働条件の向上か」と言うと、労働条件の向上どころではないでしょう。それから片一方である 「アニメーター=芸人論」ですね。芸人と同じなんだから、貧しくてもそれはしょうがないじゃないか。 これについても、ここで喋ると長くなりますんでやめときますが、わかりやすく言ってしまうと、 貧乏な芸人がどういう芸人かと言うとですね、月に一本くらいしか仕事が無い芸人なんですね。 我々は仕事はあるんです。毎日働いていて貧乏だと。それがアニメーターなんです。 そして、世間で言われているアニメーションの劣化ですね。この劣化は何を指して言っているのかと言うと、 作画の事ですね。作画を指して言っている。絵が悪くなってってしまうという理由が、 もうこれでお分かりと思いますが、荒れた仕事をせざるを得ない。 それから、こういう状況の中に優秀な人材がなかなか入ってきてくれないという事があります。 入ってきても辞めてしまう。こう言っていくと「JAniCAのやりたいのは旧来の労働組合運動か」 という風になってしまうわけですよね。そうではない。アニメーション全体を良くするためには、 作画と演出ってのはアンパンの餡子みたいなもんですから、そこのところが腐り始めちゃったら、 ダメでしょうという事ですね。餡子を包むように、脚本とか、声優さんとか、その他のパートがある。 そして、一番外側にパンの皮である、製、制作があるわけですよね。 しかし、餡子のところが腐り始めちゃってる、というのが今の状況。そこをどうにかしないと、 アニメーションはダメになってしまう。

平井:ありがとうございます。続きまして、同じくフジサンケイビジネスアイ様からのご質問です。 「国あるいは行政に求めることはあるのか。国策として持ち上げるのならば、相応の支援があった方が 良いと考えるのか。独立性を保つ上で、業界内で解決すべきと考えるのか?」そういったご質問が来ております。 では、浜野先生にこちらを答えて頂きます。

浜野:これは私個人の意見で、団体の意見ではありません。今、政府はコンテンツ専門調査部会を作って、 いわゆるコンテンツ産業の大きな期待を寄せています。知財本部が最近作成した「知的財産推進計画2007」の 前書きには、次のように書かれています。「アニメ、マンガ、食文化など我が国が誇るコンテンツの 文化的・経済的価値が高まるとともに、その担い手の裾野が広がっていることである。 これらのコンテンツは海外で高い評価を受けており、我が国のイメージを向上させるとともに、 文化の振興と産業の発展に寄与している。」それぐらい政府は、アニメーションを文化であり産業であると 期待をかけ、支援しようという考えを持っています。これまでアニメーションへの期待は、 経済力か文化力のどちらか一方に偏っていましたが、両方を持つアニメーションへの期待は高い。 しかし現在、政府は資金が少ない中でも、いくつか手を打っています。一つは海賊版対策です。 日本は海外での流通の整備が遅れたため、欧米を含む多くの国で見られている日本のアニメーションは、 海賊版パッケージか違法なインターネット配信です。それが一部でも正当な利益になれば、 アニメーターへの配分も増えるかもしれません。幸い日本のアニメーションは海外との共同作業を やってきた経験の蓄積があるため、向こうのアニメーターとも協調して、海賊版を放置していたら 結局は自分達の首を絞める事を理解してもらうような運動をしたらいいと思います。 日本のアニメーターの現状が苦しい事という認識は、役所も知っています。 多くのアニメーターの方々が契約社員であるため、技能の継承でも問題があります。 アメリカでは映画団体が政府の認可を得て、アニメーターも含めた映像制作の方々の再教育機関を設立し、 そこで研修受けるとそれまでの学歴とは関係なく、大学院の資格が受けられる制度があります。 そういった機関の設立を、私は働きかけてきました。政府の資金的に援助するといっても、 直接的作品作りに手を突っ込んでいる国もありますが、弊害がないわけではない。 これはアメリカ映画協会の方々から聞いたのですが、公的な機関が映画産業に行うべき最も重要な事は、 認知をする事。自分たちの文化である、重要な産業であるという認識を持ち、 それを表明することだと言っていました。そういった意味からも、政府は常にアニメーション産業に注目し、 精神的サポートでもいいから制度的、側面的支援をきっちりとやってほしいと思うし、 この団体としても、そういった声を上げたらいいのではないかなと思っています。働きかけて頂きたい。

記者会見・その2へ